センチメントの夜
海野懐奈 様


 チンチラの君が、未だ小さかった頃。
 歪な、揃わない芝が植わった庭のあるこの世界に、貰われて来て間もない頃。
 それでも、一人前に君は、全身を被う、白くて長い毛の繕いを、してみせてくれた。
 でも、白い毛は、小さい君には長過ぎて。
 つかえて。
 小さいチンチラの君は、それを上手に、吐き出せなかった。
 ロシアンブルーの君が教えた、緑の草を齧って、毛玉を戻す君の姿は、いつも苦しそうだった。
 けぽけぽって云う、詰まった音が聞こえて来る度、気になった。心配だった。
 けれど多分。
 チンチラの君を、一番気にしていたのは、ロシアンブルーの君。
 酷く気にして、酷く心配そうにして、詰まった小さな音が消えるまで、銀色の毛の『うずくまり』は、真っ白な毛の『うずくまり』の傍から、離れなかった。
 一一秋の事、だった覚えがある。
 チンチラの君が、ロシアンブルーの君の元にやってきて、『世界』が君達のものになって暫く。
 小さい白い君の声が、一際大きく苦しそうだった夜。
 少し大きい銀の君は、ぴったりと寄り添ったまま、ずっとずっと、苦しがる唯一の君の、鼻の頭を舐めていた気がする。
 よっぽど苦しかったんだろう、具合まで悪くしてしまったチンチラの君の傍で……ロシアンブルーの君は、時折不安げに鳴きながら、まるで、手を繋ごうとしているみたいに、銀の前足で、白の前足を叩いていた。
 …………そんな、一寸、センチメンタルな夜が過ぎてから。
 少しの間、だったのか、随分と長い間、だったのか、もう、覚えてはいないけれど。
 ロシアンブルーの君は、毎日、チンチラの君の毛繕いを、していたっけ。
 やっぱり、『その時』の声は苦しそうなままだったけれど。
 苦しそうな声ながらも、毛玉を上手に吐き出せる様になるまで、チンチラの君の毛繕いは、ロシアンブルーの君の仕事だった。
 一一もう、今では。
 柔らかい日溜まりの中で、君達は仲良く、互いの毛並みを繕うようになり。
 銀色と白色の顔の中にチョンとある、可愛い鼻の頭も、舐め合うようになった。
 対等の君達になったのか。
 それとも、あの夜のまま、君達の関係があるのか。
 それは判らないけれど。
 いつまでも、君達は、そうして。
 多分、いつまでも、そうやって。
 君達の間を吹く風だけに伝わる、君達だけの、センチメントの夜を、幾つも越えていくんだろう。
 いつまでも。そうして。

お鼻ペロっ




end










絵:Hayakawa
ライン
 海野さんと、或るラブリーな猫耳イラストを見ながら、猫煩悩な会話をしました時、その場でこんなラブリーなお話を書き上げて下さいました。
 海野さん曰く「猫の習性としては、おかしい点が有りますが、変種猫と言う事で…」。ええ勿論です。私の絵のロシアンブルーくんの瞳の色が紫紺なのも煩悩が生み出した変種猫と言う事で、皆様ご理解下さい(笑)。
(ここではご紹介出来ないのが残念ですが、読んでお分かりの事と思いますが、この物語には前話が有ります。)

 海野さん、ラブリーな猫プチ物語を有り難うございます♪♪ &私の拙い絵を添える事をご了承下さり有り難うございましたm(_ _)m

P.S. 二匹の飼い主さん、二匹がなるべく毛を飲み込まない様、ブラッシングをこまめにしてやって下さい(笑) (Hayakawa、己もな…)



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